プライベートデットファンド(PDファンド)の特徴とメリットとデメリットとは!
プライベートデット(PD)・ファンドが昨今注目されて
いますが、今回はそのしくみ背景について調べてみました。
目次
プライベートデットファンドとは
プライベートデット・ファンドは、主に信用力の低い中堅・中小企業を
対象に直接融資を行うファンドです。グローバルな金融危機後の
低金利環境下での運用ニーズの高まりや金融規制強化等を背景に、
米国を中心に、借り手企業・投資家の裾野を広げつつ、運用資産が
拡大してきました。ただし、米欧で金利が上昇した昨今では、
新ファンド立ち上げにかかる期間の長期化や大手ファンドへの
資金集中が進んでおり、新規出資は減少傾向にあります。
PD ファンドが拡大してきた背景として、低金
利下の運用ニーズの高まりに加えて、①グローバ
ルな金融危機後に銀行に対する金融規制が強化
される中、米国を中心に企業への金融仲介を補完
してきたことのほか、最近では、②借り手企業と
投資家の裾野が拡大したことや、③金利上昇や米
地銀破綻の影響を受けて金融機関の貸出態度が
一段と厳格化したことなども挙げられます。日本の PD ファンドの
市場規模は、米欧と比べて極めて限定的です。
その背景としては、本邦デット市場では、国内銀行
による融資が支配的であるほか、米欧と比べて貸出金利が低い
ことからファンドの期待リスク・リターンに見合
わないことなどが指摘されています。
PD ファンドに統一された定義はないものの、「開示情報が少なく、
借入実績がないなど、信用力が低く、比較的リスクの
高い中堅・中小企業への融資に特化したファンド」と概ねみなされてい
ます。ここでの「中堅・中小企業」とは、主に米欧
における区分で、わが国企業に例えると、中堅・
中小企業のみならず、一部の大企業も含まれる規
模感となっています。こうした規模の「中堅・中小
企業」は、米欧で 3~6 万社程度4と試算されてお
り、PD ファンドの潜在的な借り手は多いと言えます。
プライベートデットファンドの特徴は
PDファンドには、
マネージャー(ジェネラルパートナー)が役割を果たします。
役割: ファンドマネージャー(GP)は、投資のソーシング、評価、管理を
担当します。ファンドの運営を日々行い、投資決定を下します。
報酬: GPは通常、資産管理費(通常は運用資産の一定割合)と
パフォーマンスフィー(キャリードインタレスト、ファンドの
利益の一定割合)を受け取ります。
投資家はの役割は
投資家(リミテッドパートナー)の役割は
投資家(LP)はファンドに資本を提供しますが、日々の管理には
関与しません。ファンドのパフォーマンスに基づいてリターンを受け取ります。
LPの種類: 一般的なLPには、機関投資家(年金基金、保険会社、寄付基金)、
高額所得者、ファミリーオフィスなどが含まれます。
投資ビークル(ファンドの形態):
構造: プライベートデットファンドは通常、リミテッドパートナーシップ
やリミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC)として構成されます。
GPはファンドを管理し、投資決定を行い、LPは資本を提供し、
その投資に基づいてリターンを受け取ります。
プライベートデットファンドの資金調達プロセス
プレマーケティングとファンド準備:
ビジネスプラン: GPは、投資戦略、ターゲット市場、期待されるリターンを
含む詳細なビジネスプランを作成します。
ピッチデック: ファンドの戦略、実績、利点を潜在的な投資家に
伝えるためのプレゼンテーションやピッチデックが作成されます。
規制面の検討: ジュリスディクションによっては、規制要件や
登録プロセスが必要となる場合があります。
初期の投資家アプローチ:
ネットワーキング: GPはネットワークを活用して潜在的な
投資家を特定し、関心を測ります。
ロードショー: GPは潜在的な投資家と面会し、ファンドの戦略を
紹介し、質問に答えるロードショーを実施します。
正式な資金調達:
サブスクリプション書類: 興味を持った投資家には、投資の条件、
ファンドの構造、ガバナンスに関する情報を含むサブスクリプション書類が
提供されます。
コミットメント: 投資家はサブスクリプション契約に署名し、ファンドの条件に
同意することで資本をコミットします。
資金調達活動:
初回クロージング: ファンドは資金を受け入れる初回クロージングを
行い、資金調達を開始します。ファンドはその後も追加のクロージングを
行うことがあります。
最終クロージング: 最終クロージングでは、資金調達期間が終了し、
ファンドは新規投資家の受け入れを停止します。この段階で
ファンドは目標資本に到達します。
投資期間:
資本の投入: ファンドがクロージングした後、GPはファンドの
戦略に従って資本を投入し始めます。
投資の管理: GPは投資のパフォーマンスを監視し、借り手との関係を管理します。
継続的な管理と報告:
パフォーマンス報告: GPは投資家に対して定期的な更新や
パフォーマンス報告を提供し、投資の状況やリターン、重要な
開発事項について説明します。
分配: 投資がリターンを生むと、GPはファンドの分配ウォーターフォール
に従ってLPに分配を行います。
ファンドの成熟と終了:
再投資期間: プライベートデットファンドは通常、定義された
投資期間があり、この期間中に新たな投資が行われます。期間終了後は、
既存投資の管理とエグジットに焦点が移ります。
ファンドのライフサイクル: ファンドは最終的にライフサイクルを迎え、
投資家に資本と利益を返還することを目指します。通常、投資からの
エグジットを通じて行われます。
プライベートデットファンドの資金調達プロセスは、入念な計画、広範な
ネットワーキング、そして潜在的および既存の投資家との継続的な
コミュニケーションを含みます。ファンドの目標は、強力な投資家基盤を
構築し、資本を効果的に運用してリターンを生み出すことです。
借り手企業を業種別にみると、情報技術、ビジ
ネスサービス(法律事務所、IT コンサルティング
サービス業等)、ヘルスケアなどが多い(図表 8)。
これらの業種では、事業の特殊性や新規性などを
背景に、銀行から融資を得るのが相対的に難しい
また、借り手にとっては、銀行融資対比で金利
が高いながらも、融資審査期間が短く、早く確実
に融資を得られることや、銀行規制のもとでは対
応が難しいような大きい融資枠や長期の融資期
間の設定も柔軟に対応可能であることなどが PD
ファンドの利点として指摘されている(図表 9)。
なお、最近では、金利上昇を受けて銀行の貸出
態度が厳格化する中、一部の大企業が新たな資金
調達源として大手 PD ファンドを選択する例もみ
られており、借り手企業の裾野が拡大しています。
プライベートデットファンドのメリットは
PD ファンドのAUM は、2023 年 6 月末時点で 1.7 兆ドル程度と
PE ファンドの 5 分の 1 程度の規模であるものの、
過去 10 年間で 4 倍近く残高が拡大しており、米
国を中心にその存在感が増しています。
PD は、銀行貸出や HY 債と比較して、流動性の
低さとコベナンツの厳格さに特徴があります。
PD ファンドは、金融市場で取引されないこと
もあって、他のデットアセットと比べて市場変動
の影響を受けにくく、これまでのところ安定して
高いリターンが得られてきました。加えて、
変動金利貸であるため、今回の米欧における金利
上昇下ではその恩恵を享受し、リターンが高まっ
た面もある。こうした PD ファンドのパフォーマ
ンスの高さも、市場規模拡大の一要因として指摘
される。もっとも、このリターンには、借り手の
リスクの高さが反映されていることに加えて、投
資家が長期間資金を供給したことに対する見返
りが含まれるほか、ある程度限られた期間での結
果であることには留意が必要です。
プライベートデットファンドのデメリットは
まず、流動性については、PD の多くは、投資家の
解約が制限されているクローズドエンド型であ
り、融資実行後、償還までの保有が前提であるた
め、流通市場はなく流動性は極めて乏しいです。次に、
融資条件の変更等を定めたコベナンツについて
は、PD では、デフォルト発生率の引き下げや破綻
時回収率の引き上げのために、借り手企業に対し
て独自の強い制約を設定していることが多いです。
プライベートデットファンドの構造
プライベートデットファンドについては、運用実態の透明性の
低さや金融システム内の連関性の高まり、信用の急拡大に伴う脆弱性の蓄積、
一部にみられるオープンエンド型ファンドの流動性リスクなどへの
警戒感が指摘されている。より長い目でみた持続的な経済成長の
ための効率的な資源配分への影響も含めて、その動向に注目していく必要が
ありそうです。
参照:https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/rev24j03.htm
まとめ
PD ファンドの借り手は、開示情報等の透明性
の低さや業況低迷などから銀行借入が難しい先
や、当該企業のスポンサー7である PE ファンドの
紹介で、PD ファンドに資金調達を頼る先が多い
と言われています。
もっとも、最近では、PD ファンドの潜在的リス
クを指摘する声が徐々に増えており、警戒感が高
まっています。
連関性については、PD ファンドは、同じ投
融資先をもつ PE ファンドをはじめ、資金調達先
である機関投資家等のノンバンク金融仲介機関
(NBFI)との連関性が極めて高いのが現状です。
こうしたリスクを鑑みなら、オルタナティブ投資先
としての判断が必要のようです。