
PDファンド(合同会社)とアセットマネージャー(AM)の役割の違いとコスト負担は!?
プライベートデット(PD)・ファンドは、主に信用力の
低い中堅・中小企業を対象に直接融資を行うファンドです。グローバルな
金融危機後の低金利環境下での運用ニーズの高まりや金融規制強化等を背景に、
米国を中心に、借り手企業・投資家の裾野を広げつつ、運用資産が拡大して
います。
しかし、日本のPDファンドの市場規模は、米欧対比で極めて限定的です。
PDファンドについては、運用実態の透明性の低さや金融システム内の連関性
の高まり、信用の急拡大に伴う脆弱性の蓄積、一部にみられるオープンエンド型ファンド
の流動性リスクなどへの警戒感が指摘されているようです。
目次
PD ファンドのしくみ
PD ファンドに統一された定義はないものの、
「開示情報が少なく、借入実績がないなど、信用
力が低く、比較的リスクの高い中堅・中小企業へ
の融資に特化したファンド」と概ねみなされてい
る。ここでの「中堅・中小企業」とは、主に米欧
における区分で、日本企業に例えると、中堅・
中小企業のみならず、一部の大企業も含まれる規
模感となっています。こうした規模の「中堅・中小
企業」は、米欧で 3~6 万社程度4と試算されてお
り、PD ファンドの潜在的な借り手は多いと言えます。
融資スキーム
PD ファンドは、年金基金をはじめとする投資
家から調達した出資金と、銀行部門から調達した
借入金5をもとに、企業向け融資を行い、得られた
利息を投資家等に分配しています。PD フ
ァンドの運用会社は、得られた利息の一部を運用
報酬として受領します。
また、PD ファンドは、投資家と同じリスクを負
うことで投資家の信頼を獲得することなどを目
的に、ファンド自身もファンド運営に責任を負う
投資家(GP 投資家6)として案件に出資すること
が一般的です。
もっとも、PD ファンドは、ポートフォリオの詳
細や GP 投資家としての出資割合、銀行部門から
の資金調達状況など、多くの情報が非開示である
ことが多いようです。
融資条件の特徴
PD による融資は、変動金利で融資期間 7~10 年
程度の相対型ローンが主流です。一般的な銀行
貸出と比べて、融資期間が長いほか、融資先のリ
スクが高いケースが多く、PD の貸出金利は、その
分スプレッドが厚めに設定されている。
PD は、銀行貸出や HY 債と比較して、流動性の
低さとコベナンツの厳格さに特徴があります。
まず、流動性については、PD の多くは、投資家の
解約が制限されているクローズドエンド型であ
り、融資実行後、償還までの保有が前提であるた
め、流通市場はなく流動性は極めて乏しい。次に、
融資条件の変更等を定めたコベナンツについて
は、PD では、デフォルト発生率の引き下げや破綻
時回収率の引き上げのために、借り手企業に対し
て独自の強い制約を設定していることが多いようです。
PD ファンドの借り手は、開示情報等の透明性
の低さや業況低迷などから銀行借入が難しい先
や、当該企業のスポンサー7である PE ファンドの
紹介で、PD ファンドに資金調達を頼る先が多い
と言われています。
金利上昇の影響として、まず、新たなファンド
を立ち上げる際に投資家に出資を募集するファ
ンドレイズ期間の長期化が挙げられます。
割引率の上昇によって被買収企業の現在価値が
低下した中、M&A 市場が低迷し、バイアウト案
件において企業売却による投資資金の回収が遅
れている。こうした動きは、PE ファンドだけでな
く、PE ファンドが手掛けた案件に融資した PD フ
ァンドにもみられる。投資家は、通常、回収した
資金を元手に次の案件に投資するため、投資家・
ファンド間の資金移動が停滞したことで、PD フ
ァンドに新規出資が集まりにくくなっている。
また、金利上昇下で、実績のある大手ファンド
への資金集中もみられているようです。運用実績が豊富な
大手ファンドに資金が集中し、大手以外のファン
ドは資金が集まりにくくなっているようです。
この結果、新設ファンド規模は巨大化している。
これらの動きを映じて、冒頭でみたように PD
ファンドの AUM が増加を続けている一方で、追
加的な資金流入に当たる新規出資(ファンドレイ
ズ)は、金額・件数ともに近年減少傾向となって
いるようです。
PD ファンドに関する開示情報が少なく、十分な
データが得られないことから、運用実態や保有資
産の内包するリスクを把握できない点に警戒を
示す声が多いようです。
連関性については、PD ファンドは、同じ投
融資先をもつ PE ファンドをはじめ、資金調達先
である機関投資家等のノンバンク金融仲介機関
(NBFI)との連関性が極めて高い。さらに、近年、
米欧金融機関がファンド会社との連携などによ
り PD 市場へ参入する事例が増えているほか、本
邦金融機関の一部でもファンド向けファイナン
スを積極化するなど、銀行部門との連関性も高ま
っているようです。
脆弱性の蓄積については、歴史を振り返る
と、民間信用の急激な拡大期に脆弱性が蓄積し、
多くの金融危機が生じてきました。グローバルな金融
危機後に急成長した PD ファンドでは、多くの先
が景気後退局面における債権回収などの信用リ
スク管理を未経験であると考えられます。今
主体別の最近の特徴や近年の金利上
昇下における動向、潜在的リスクに焦点を当てて
整理した。PD ファンドは、運用会社の運用方針の
積極化、借り手企業と投資家の裾野の拡大、金融
規制強化や金利上昇下での金融機関の貸出態度
の厳格化等を背景に市場規模を拡大させてきました。
参照:日本銀行
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j03.pdf
合同会社(GP)とアセットマネージャー(AM)の役割の違い
役割 合同会社(GP) アセットマネージャー(AM)
法的立場 ファンドの実体(法人格) ファンド運営の受託者
責任 ファンドの意思決定を行うが、実務はAMに委託 投資判断、運用管理、
レポーティングを担当
投資判断 AMの助言を受けつつ最終決定 実際のデューデリジェンス、投資先の選定、管理
報酬の形態 GP報酬、キャリー(成功報酬) 運用報酬(Management Fee)
契約関係 LP投資家との間でファンドを構成 GPやファンドと運用委託契約を締結
ファンド(合同会社)はあくまで投資ビークルであり、実際の運用はAMに委
託するのが一般的です。
PDファンドにかかるコストの会計処理
PDファンドにかかるコストの処理は、コストの性質と発生主体によって異なります。
ファンド(合同会社)の経費となるもの:
投資案件のデューデリジェンス費用(弁護士・会計士の報酬など)
資産の管理費(カストディ費用、信託報酬など)
ファンドの監査費用(監査法人への報酬)
LP向けレポーティング関連費用
金融機関への支払手数料
アセットマネージャー(AM)の経費となるもの:
AMのスタッフ給与・オフィス費用
マーケティング費用(投資家向け説明会など)
一般管理費(通信費、光熱費、備品費など)
AM自身のリーガル費用(自社の法務関連)
判断基準
ファンドの直接的な運営や投資に関する費用 → ファンドの経費(合同会社で計上)
AMの運営・管理に関する費用 → AMの経費(AM法人で計上)
ただし、ファンドとAMの契約内容によって、一部の費用
(例えば、デューデリジェンス費用)がAM負担となる場合もあります。
その場合、AMが費用を負担し、ファンドから報酬として受領する形になります。
ファンド設立のためのコスト
ファンド設立のための準備費用は、費用の性質と発生主体によって、以下のように整理できます。
ファンドの経費(合同会社が負担)となるもの:
ファンド自体の設立に直接関連するコストは、基本的にファンド
の経費として処理するのが一般的です。
・ファンド登記費用(登録免許税、司法書士報酬など)
・リーガル費用(契約書作成、法的アドバイスなど)
・ファンドの監査・税務アドバイザリー費用(監査法人・税理士への報酬)
・投資家向けドキュメント作成費用(PPM、LPA作成費用)
これらの費用は、ファンドの運営を開始するために直接必要なものであり、
会計上は「繰延資産(設立費)」として計上し、一定期間で償却するのが一般的です。
AMの経費(アセットマネージャーが負担)となるもの
一方で、ファンドの設立に向けたマーケティング活動や、AM自身の
準備コストについては、AMが負担するべきものと考えられます。
・投資家勧誘のためのマーケティング費用(ロードショー、PR費用など)
・AM側の法務・コンプライアンス対応費用(自社の規制対応)
・AMの内部スタッフコスト(ファンド設立準備に関わる人件費)
これらはファンド自体の運営とは関係なく、AMのビジネスとして
発生する費用であるため、AMの経費として計上するのが適切です。
実務上の注意点
ファンド設立費用が最初にAM側で支払われた場合、ファンド設立後に
ファンドがAMに対して費用を払い戻すことが可能。ただし、LPA(リミテッド・パートナーシップ契約)
で事前に合意が必要。
ファンド設立費用がLPの合意なしにファンドの経費とされた場合、投資家からのクレームや、
ガバナンス上の問題が発生する可能性があるため、契約書で明確に規定することが重要です。
まとめ
今回はPDファンドに関連する役割について調べてみました。
まとめると、
ファンド設立に直接関係するコスト(登記、リーガル、監査)はファンド負担
AMのビジネス活動に関連するコスト(マーケティング、内部コスト)はAM負担
AMが一時的に立て替えた場合、LPAの合意のもとでファンドからAMへ払い戻し可能
となるようです。