物価連動債(TIPS)はなぜ今米国で注目されるのか?
物価連動債とはなにか?
物価連動債券は米国ではTIPSと呼ばれ
注目されている債券のひとつです。
物価連動債とは、物価上昇率(インフレ率)に応じて、
元本が調整される債券です。通常の固定利付債の場合、
元本とクーポン利率は固定であり、利払い額および償還額は
変動しないため、物価が上昇すれば、実質ベースでは
物価上昇分を割り引いた実質的な債券の価値は低下
するので、債券価格は下落します。
一方で物価連動国債は、インフレが上昇すれば、
元本が増えていくしくみなので、債券価格は上昇
していく仕組みです。
今、物価連動債が米国で注目される理由は
世界経済が勢いを増し、原油その他のコモディティ価格が
数年ぶりの高値を付けています。
そして、同時にインフレ期待が強まっていることから
有利になる米物価連動国債(TIPS)の人気が高まっている
のです。
何年も達成できなかった2%のインフレ率が、米国では
実現するかもしれないとの見方が広がってきていること
がこの物価連動債券上昇の背景となっています。
そうなればTIPSは今年、通常の米国債よりも高い
リターンをもたらすので、今までは、米国債を買っていた
投資家が、物価連動債のほうに注目を変えてきているのです。
一般的な世の中の見方は、世界同時景気拡大が起こっており、
インフレは上昇に向かっている」というのがコンセンサスと
なっています。
先月は、物価連動債に特化したファンドには4億6550万ドルの
資金が流入し、資産総額は過去最大の673億9000万ドルに
膨らんでいます。
インフレ上昇の見方の背景は
米国では税制改革法の成立により、少なくとも
短期的には設備投資や雇用が増えると見込まれており、
インフレ率が間もなく上昇し始める可能性があるとの
見方が圧倒的となっています。
また、ドル安傾向が進んでいるため、米国の輸入物価も
上昇圧力がかかります。
本当にインフレになるのか?
これらの要因はTIPSの支援材料ですが、米国では
失業率が17年ぶりの低水準に下がったにもかかわらず、
賃金の上昇が加速していないことが気がかりです。
本当に物価連動債券を買う雰囲気にはなっていないのも現実です、
TIPS買いに歯止めをかけているもう1つの要因が、年初来の
世界的な債券安の動きです、
通常の10年物米国債利回りと10年物TIPSの利回り格差
は、市場が期待しているインフレの指標とも言われていますが、
先週、昨年3月以来初めて2%を突破しました。
この格差は、今後10年間の投資家のインフレ予想を示す指標で、
原油などの上昇を背景に昨年6月の1.66%からじりじりと上昇して
きています。
しかしながら、2012年以来、米国のインフレ率は年初に
上向いた後、原油価格の季節的な下落を主因として息切れする
傾向があるため、インフレ上昇の持続性には懐疑的で、過去の
パターンを繰り返すのでは、といった見方も少数派ながら
あります。
まとめ 〜円高との関係は?
現在の市場は、金利上昇感が強まっていることは事実です。
インフレ予想が強まれば、金利上昇となり、同時に物価連動債
も上昇します。
しかし、不思議なのは、米国の金利があがっているにもかかわらず
ドル円は円高傾向となっています。
金利上昇による株式市場に対する不安が強まっていることが
その背景のひとつです。
株式市場があやしくなれば、低金利の円を借りて投資していた
ポジションの巻き戻しが起きてしまうのです。
ですから、殆どの投資家といってもいいほどの人たちが
ドルの買い持ちとなる投資が残っているなか、今後の市場は、
一筋縄でいかなくなり、自分を守る取引手段も備えておいた
ほうがよさそうな気がします。