
プライベート・デット・ファンド(PD)キャピタルコールの合同会社(GP)とファンド本体(LPS)の責務は!
プライベートデット(PD)ファンドにおける合同会社(GP)と、
ファンド自体(通常は有限責任組合などで構成)は、法的にも会計税務上も
「別のEntity(別法人格・別主体)」として扱われます。
そこで、今回はPDのしくみを明確化するために、その構造上の重要な
役割をもつ、GPとファンド本体の役割の違いについてまとめて
みました。
目次
PDファンドにおけるGPとLPの 法的区分の違い
区分 合同会社(GP) ファンド本体(通常は投資事業有限責任組合など)
法人格 有り(法人格を持つ) 有り(組合として法人格に類する扱い)
主な役割
ファンドの運営者(管理責任を持つ) 投資資金の保有者・出資受け皿
組成目的 ファンドマネジメント業務 投資活動の実行主体
登記の必要 有り(商業登記) 有り(組合契約に基づく登記)
会計・税務上の取扱い
GP(合同会社)の取扱い
GPは独立した法人として法人税の課税対象。
ファンド運営に係る報酬(マネジメントフィーやキャリー)は、GPの収益として認識されます。
AM業務(アセットマネジメント)を受託していれば、これも収益計上。
自らも少額出資している場合、その部分の損益は持分に応じて計上。
ファンド(例:投資事業有限責任組合)の取扱い
パススルー課税:組合自体には法人税が課されず、出資者(LP/GP)に損益が配分される。
ファンドの損益は、GP・LPに出資割合等に応じて分配・計上。
したがって、ファンドの損益は出資者個人・法人の所得に合算される。
なぜ別Entityにするのか?
リスク隔離:ファンドの損失がGPの他のビジネスに波及しないようにする。
会計・税務処理の明確化:ファンドとGPの損益、資産・負債を明確に分離。
LP投資家の信頼確保:運用と資金保有を分け、ガバナンスを効かせる。
アセットマネジメント(AM)会社が、
ファンド運営のために専用の「合同会社(GP)」を立ち上げ、
その合同会社が投資事業有限責任組合(LPSなど)を管理するというスキームは、
非常に一般的かつ合理的な構造です。
基本的な構造図(日本型プライベートデットファンド)
出資 運営受託(助言・管理)
┌───────────┐
│ LP投資家(金融機関など) │
└───────────┘
│
▼
┌──────────────────────────────┐
│ 投資事業有限責任組合(ファンド本体) │ ←←←← 出資(LP + GP)
└──────────────────────────────┘
▲
│GP出資・管理責任
│
┌────────────┐ 契約(AM契約) ┌────────────┐
│ 合同会社GP(管理運営主体) │━━━━━━━━━━→│ AM会社(助言者) │
└────────────┘ └────────────┘
それぞれの役割
役割 主体 内容
LP投資家 機関投資家・富裕層等 ファンドに出資。有限責任。損益は出資比率に応じて分配される。
GP(合同会社) AM会社の子会社など ファンドを法的に代表・管理。リスクは無限責任。
通常は1%程度の出資。
AM会社 金融機関や独立系など ファンドの実務運用(案件発掘・分析・モニタリング・出口戦略の策定)
を担当。GPとAM契約を締結して報酬を得る。
ファンド本体(LPS) 投資事業有限責任組合など 実際の投資ビークル。法人格はないが、
登記された法的な枠組みを持つ。
具体的なファンド事例(日本/アジア)
1. JIS(Japan Investment Support)プライベートデットファンド
組成主体:中堅AM会社
構造:AM会社が合同会社を別途設立し、その合同会社がファンドのGPに
投資先:地域企業の再生・MBO資金提供など
2. アジア系の例:Dymon Asia Private Credit
シンガポール拠点。複数のSPVを用いてファンドを組成。
Dymon AsiaがAM会社で、各ファンドごとにGP合同会社を設立。
クロスボーダー投資(インド・ベトナムなど)を行う。
3. あおぞら銀行系列「Aozora Private Debt」ファンド(日本)
銀行系AM会社が主導し、GPとして別会社を設立。
投資対象:日本のミドルマーケット企業へのメザニンローン等。
なぜAM会社はGPを別会社として設立するのか?
リスク隔離 ファンドの責任(無限責任)をAM会社本体に直接及ぼさないため
法律上の要件 ファンドを組成するためにはGP(運営責任者)が必要
複数ファンド管理 AM会社が複数のGP(合同会社)を設立し、それぞれ
異なるファンドを運用できる柔軟性
キャリーの設計 キャリー報酬などをGPに集中させ、税務的にも最適化できる
補足情報(会計・税務上)
GP合同会社の利益:マネジメントフィー・キャリー報酬などが計上される。
AM会社の利益:GPとのAM契約に基づき、助言料や業務委託料を得る。
ファンド(LPS)の損益:パススルーされ、GPおよびLPに分配。
キャピタルコールの責任は
キャピタルコール(資金呼び出し)の責任は、通常「GP(合同会社)」が負い、
AM会社本体は直接的には負いません。
なぜGPがキャピタルコールに関与するのか?
投資スキームにおける立ち位置:
ファンドの法的な管理者(General Partner、GP)として、キャピタルコール
の発出権限と責任を持つのはGPです。
AM会社は運用助言者にすぎないため、出資契約に関与せず、
出資義務を負うこともありません。
各当事者の責任範囲
役割 主な責任 キャピタルコールに対する義務
GP(合同会社) ファンド管理、出資要請、投資意思決定 キャピタルコールの
「発出主体」。LPや自身の出資分について責任を持つ。
LP投資家 出資契約に基づく資金拠出 コミットメントに従い、
キャピタルコールに応じて資金拠出義務あり。
AM会社 投資助言、運用、モニタリング等 原則として、
キャピタルコール義務なし。ただし、AM報酬はGPから受領。
GPのキャピタルコール義務(自分の分)
GPは一般的に1~5%の出資を持つため、その自己出資分については
LPと同様にキャピタルコールに応じる必要があります。
この出資分は、AM会社がGPを100%保有していれば、実質的には
AM会社がそのリスクを間接的に負っているということになります。
AM会社 → 100%子会社としてGP設立 → GPが1%出資 → この分の
キャピタルコールはGPが負担
AM会社がGPを直接兼ねているケース(まれですがあり得ます)では、
キャピタルコール責任はAM会社が直接負います。
親会社保証やレターオブサポート:特定の機関投資家との信頼関係の中で、
AM会社がGPに資金を貸し付けたり、間接的な保証を行うケースもありえます。
まとめ
PDファンドとそのGP(合同会社)は、法的にも会計税務上も明確に区別される別のエンティティです。
ファンドは「投資活動の器」であり、GP(合同会社)はその「運営者」。
両者は契約関係(たとえばLPAなど)により役割を明確にし、それぞれが独立して税務・会計処理を行います。
そしてキャピタルコールの発出主体は GP(合同会社)にあります。
GP自身のキャピタルコール義務はあるは自らの出資分について負います。
AM会社はキャピタルコール義務は 通常は負いませんが、GPを通じて間接的に関与する
ケースが考えられます。
PDファンド(合同会社)とアセットマネージャー(AM)の役割の違いとコスト負担は!?