プライベート・エクイティファンド(PEファンド)の組成実務とNAV、AUMの算出方法は!
オルタナティブ投資のひとつである、プライベート・エクイティファンド
について取り上げてみたいと思います。
日本はとくに立ち遅れているこの分野のファンド投資について
まだ不透明な部分もあり、まずはPEファンドのしくみについて
調べてみました。
目次
プライベート・エクイティファンドの組成実務
プライベート・エクイティファンド(PEファンド)は、未公開企業への
投資を目的としたファンドです。通常、以下のような流れで組成・運営されます。
投資家の募集: ファンドは、富裕層や機関投資家から資金を募ります。
この資金は通常、「コモンエクイティ」や「キャピタルコール」
として呼ばれ、投資家は必要に応じて資金を提供します。
ファンドの設立: 多くのPEファンドはリミテッド・パートナーシップ(LP)
という形態をとり、出資者(リミテッド・パートナー、LP)と
運用者(ジェネラル・パートナー、GP)で構成されます。GPはファンドの
運営と投資判断を行い、LPは資金提供のみを行います。
投資活動: ファンドは未公開企業や再編の必要がある企業、スタートアップ、
特定の業界に注力している企業など、成長可能性のある対象に投資します。
これには買収、事業再編、レバレッジド・バイアウト(LBO)などの手法が含まれます。
投資の回収: 投資した企業が成長・再編後、上場や他社への売却、事業再構築に
よるキャッシュフローの改善などにより、投資家へのリターンを回収します。
この段階で、投資元本と利益を投資家に分配します。
ファンド組成の実務
法律的組成: ファンドの組成には法的な枠組みが必要です。一般的に、
米国ではデラウェア州のリミテッド・パートナーシップ(LP)形態が
多く用いられます。日本では、投資事業有限責任組合(LPS)や合同会社(GK)
を用いることが一般的です。
ファンド契約書(LPA): ファンドの条件や規約、リターンの分配方法、
手数料構造などを明記した契約書を作成します。
運用体制の構築: 運用会社(GP)を設立し、運用チームや投資委員会を構成します。
運用プロセスや投資判断の基準、リスク管理体制などもここで定めます。
法的制限
PEファンドは様々な法律の制約を受けます。
証券規制: ファンドが募集・販売する際、一般公募(Public Offering)はできないため、
適格投資家(機関投資家や富裕層)に限定されます。
金融商品取引法(日本の場合): 投資一任契約や投資顧問契約に基づく運用行為は、
金融商品取引法の規制を受け、登録・届出が必要です。
競争法規制: 企業買収に際しては、独占禁止法(競争法)による規制があり、
一定の規模を超える場合は公正取引委員会の許可が必要です。
投資家への利益還元方法
投資家は以下の方法で利益を享受します。
キャピタルゲイン: 投資先企業の売却やIPOにより得られる利益(キャピタルゲイン)を
分配されます。これが主なリターンです。
配当金: 一部のPEファンドは、投資先企業から得られる配当金を投資家に
分配することもあります。これはキャピタルゲインほど大きくはありませんが、
安定した収益の一部となります。
ハードルレートとキャリードインタレスト: ファンドのパフォーマンスが一定の
基準(ハードルレート)を超えた場合、GPは「キャリードインタレスト」と
呼ばれるインセンティブフィーを得ます。通常、これがリターンの20%程度です。
その他の考慮点
投資期間: PEファンドは通常、10年程度の投資期間を持つ長期投資です。
そのため、投資家は資金のロックアップ(引き出し制限)を覚悟する必要があります。
手数料構造: ファンドの運営手数料は通常、投資家から資金の2%程度を
毎年徴収し、さらにキャリードインタレストとして成功報酬を得ます。
PEファンドは高リスク・高リターンの投資形態であり、運営の専門知識と
経験が求められます。さらに、法的な規制や運営上の配慮も必要となるため、
慎重な組成と運用が重要です。
PEファンドのNAVとAUMの算出方法
プライベート・エクイティ(PE)ファンドのNAV(Net Asset Value、純資産価値)
とAUM(Assets Under Management、運用資産額)は、ファンドのパフォーマンス
や運用状況を示す重要な指標です。これらは、以下のように評価されます。
NAV(純資産価値)の評価
NAVは、ファンドの資産総額から負債を差し引いた純資産価値を示します。
PEファンドの場合、投資先企業の評価が中心になりますが、上場株式や
キャッシュなど、容易に評価可能な資産も含まれます。
評価方法
コストベース法: 最初の投資額をもとに評価する方法ですが、長期間の投資の場合、
現在の実際の価値を反映しにくくなります。
公正価値法(Fair Value): 国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)に基づき、
投資先企業の公正価値を算出します。一般的には四半期ごとに見直しが行われ、
以下の手法が用いられます。
DCF法(Discounted Cash Flow): 将来のキャッシュフローを割引率で
現在価値に割り引いて評価する方法。
マルチプル法: 類似企業の財務指標(EV/EBITDAやP/Eレシオなど)
を基に投資先企業の価値を評価。
市場比較法: 類似企業の最近の取引や買収の価格を参考にして評価。
第三者評価: 独立した評価会社による外部評価も行われることがあり、
投資家に対する透明性を高めます。
NAVの算出プロセス
投資先企業の価値評価: 投資先ごとに公正価値を評価。
その他の資産・負債の計上: キャッシュ、未払費用、負債などを反映。
NAVの算出: 総資産から負債を差し引いてNAVを算出。
AUM(運用資産額)の評価
AUMは、ファンドが管理している総資産額を示します。これには、
投資家からの出資約束金(Committed Capital)と、すでに投資に
使われている資金(Invested Capital)が含まれます。
評価方法
コミットメントベースの評価: 投資家からの出資約束額全体をAUMとして
計上します。例えば、ファンド総額が500億円の場合、その全額がAUMとなります。
インベストメントベースの評価: 実際に投資された金額のみを
AUMとして計上します。例えば、総額500億円のうち、200億円が投資済みの
場合、200億円がAUMとなります。
キャピタルコールの反映: ファンドは投資家から必要に応じて資金を
「キャピタルコール」として呼び出します。呼び出された資金はAUMに反映されます。
AUMの算出プロセス
コミットメントの集計: 投資家からの出資約束金の集計。
キャピタルコールの反映: 実際にキャピタルコールされた資金を反映。
投資の加算: 実際に投資された資産の価値を加算。
実務上の考慮点
評価の頻度: 上場企業のように毎日NAVを評価するわけではなく、
通常四半期ごとに見直されます。ただし、主要なイベント(IPO、M&A、資金調達など)
が発生した場合には臨時の評価が行われることもあります。
評価の透明性と正確性: 投資先企業が非公開であるため、評価における
主観性が排除できません。これにより、評価の透明性と正確性を確保するために、
評価プロセスや手法を投資家に対して明確にする必要があります。
規制面の考慮
会計基準やファンドの法的規制によって、評価手法や開示が求められる
ことがあります。これにより、投資家に対する情報の適切な開示が求められます。
まとめ
PEファンドのNAVとAUMは、ファンドの健全性やパフォーマンスを把握する
上で重要な指標です。特に未公開企業への投資を中心とするため、その評価は
複雑で専門的な手法が必要となります。投資家に対して透明性を保ちつつ、
適切な評価を行うことが求められます。
小規模、スタートアップ企業を含めた未上場会社への投資を行うファンドなので
投資先の選別がキーとなり、投資先企業のIPOやM&Aなどの
EXITにより収益を得ることが主たる根幹となっているファンドと言えます。