
トランプ次期政権のスムートホーリー(国境税調整)がもたらすドル円への影響は?
トランプ政権の目玉といわれている国境税調整について
いまだまだ、わからないことが多いものの、今のところ
市場の反応は限定されています。
市場は今のところ法人税率引き下げや企業の海外利益のレパトリ
奨励策など、トランプ氏の市場寄りの税制改革案を好感していますが
税収基盤を生産・出荷が行われる国・地域から
最終消費地にシフトするという比較的複雑な提案について
はあまり注意を払っていないようです。この提案によって、アメリカの
輸出業者が恩恵を受ける一方で、輸入品を販売する
小売業者は打撃を被る可能性があります。
理論的には、こうした国境税調整は国内生産と輸出を促進し、輸入品に
対する課税は減税の穴埋めに役立つ発想ですが、相手国が同じことを
した場合どうなるかについての論点が市場にまだ織り込まれていない
ようです。
関税はトランプの独壇場?
米大統領は議会の承認なしで関税を課すこともできるそうです。
トランプ氏は、詐欺師と見なす貿易相手国に対して、強硬な政策を
採るよう主張するピーター・ナバロ氏を、新たに設置する国家通商会議の
代表に指名したことで、トランプ政権の一丁目一番地の政策とみて
間違いなさそうです。
GDPへの影響は
輸入品は米国のGDPの約15%を占め、輸入品が多い消費財は
コア消費者物価指数(CPI)の25%を占めています。国境税調整は
インフレ率を押し上げる可能性が高いと予想されますが、
米国、欧州、中国がいずれもモノの貿易コストを10%引き上げた場合、
輸出と輸入が急減し、それぞれの国・地域のGDPが2~3%減少すると
試算されています。しかも、この数値には
貿易紛争が企業や消費者の信頼感に及ぼす影響が織り込まれていません。
アメリカの中国への姿勢がキーとなる
トランプ氏は中国をいら立たせる一方で、ロシアには擦り寄る姿勢を
引き続き示しています。二大貿易大国である米国と中国の緊張の高まりが
世界経済に対する最大のマクロ・リスクになるといわれています。
ビジネス的には中国の消費者の購買力はロシアの6倍に上り、
米国の月間対中輸出額(97億ドル)は対ロ輸出額(71億ドル)を上回り、
米国企業の中国拠点はロシア拠点の5倍に上っています。そして、忘れてはならない
のは、米連邦債務の対GDP比が100%を突破して増加する中で、
中国は1兆1000億ドルに上る米国債を保有していることです。一方
ロシアの保有額は750億ドルで、ビジネスにおけるアメリカと中国の関係
はロシアとは比較にならないほど大きいのです。
そのしわ寄せが日本にそしてドル円の動きにも
トランプ氏がマクロ経済や国際情勢をしっかりと把握したうえでの
発言であるなら、まだ現実路線に乗っかってくる見通しも成り立ち
ますが、どうも彼の頭の中には、アメリカの貿易赤字の不公平さ、
とくに中国、メキシコ、日本に対してアメリカの収支を改善させる
切り口しか頭にないようです。
そのためには、自らの権限をなにふり構わず振り回すというのが
彼のツイッターからもくみ取れます。
ドル円についても、しばらくは調整的な動きが続くことを想定した
オペレーションをしたほうがよさそうです。